【国道153号線旧道-伊勢神隧道 周辺図】
愛知県随一の石造りの隧道・伊勢神隧道は国道153号線上にあります。周辺図と共に伊勢神隧道にまつわる考察も見て下さい。
【伊勢神隧道怪異潭考察】


 明治のトンネル、伊勢神隧道。
国内では珍しい石造りの隧道という事で、県の文化財に指定されています。 しかし、有り難く無い事にこの重厚な隧道も、「心霊スポット」としての悪名の方が有名であります。ここを通 ると幽霊に会うとか、体調が悪くなるとか、様々な心霊体験が噂され、またネットでも伊勢神隧道の怪奇現象を扱うサイトが沢山あります。主に女性の幽霊が目撃されるそうです。 そもそもいつからこんな噂が流れたのか?
色々調べてみた所、発端となったらしい話を見付けました。それはとあるトラックドライバーの話から始まったそうです。

「新道が開通して間もない頃。とあるトラックドライバーが国道153号を走っていると、一人の女性がこの山道を歩いていたらしい。不憫に思ったこのドライバーは女性をトラックに乗せ、ふもとまで送ってあげようとした。しかし新道を抜けると、助手席に座っているはずの女性が消えていたという・・・。」
※この話は「探偵ファイル」より引用しました。

 話の構造自体は、「タクシーの幽霊」と同じですが、これがきっかけとなって伊勢神隧道は心霊スポットとして、様々な心霊体験が報告される様になったといいます。
自分が昔聞いた話では、「強制連行されて来た朝鮮人が働かされ、過酷な労働により死者がでた」という話だったと記憶しています。「トンネルを造る時に人柱を立てた」なんて話もあるとか… やはりトンネルという物が あの世の入り口を連想させるのか、怪談が多いようです。

 旧伊勢神隧道は明治30年に、新伊勢神隧道は昭和35年にそれぞれ開通しているので、強制連行されてきた朝鮮人なんて話はつじつまが合いません。人柱もこの現代ではありえないでしょう。こういった噂はここだけじゃなく、岐阜県の国道418号線沿いの、丸山ダム近くの二股トンネルにもあります。この二股トンネルもやはり心霊スポット扱いされています。このトンネルは別 名「朝鮮トンネル」と言い、朝鮮から連れて来られた労働者が建設中に死んだと言うのが由来だそうです。 しかし、開通は昭和29年なので戦後です。

 では何故、こんな話が流布されるのか?
私見ではありますが、そもそも「心霊スポット」などと言われるものが現れたのは、70〜80年代あたりじゃないでしょうか。その頃日本は、高度経済成長の真只中です。国民全体が日本の未来を信じていた時代です。そんな明るい時代に何故、恐ろしい話が語られだしたのか?
物事には「光」と「闇」の相反する面があって、バランスを取っているものです。人々が時代の光の側面 ばかり見ていた為、それを補うような格好で「心霊潭」が語られ出したのではないでしょうか。
 それはまさしく「時代の闇」を語るモノ。先の「強制連行されてきた朝鮮人」の話も、日本の歴史の汚点そのものです。 怪奇な噂や幽霊の話は、何も今に始まった事じゃありません。いわゆる怪異は、昔なら妖怪の仕業とされて来ました。ところが科学が発達した現代においては、夜の闇は電燈で照らされ、不思議な事は科学で解明され、妖怪はすっかり駆逐されてしまいました。そこで現代科学をもってしても解明できない、「心霊」が脚光を浴びたという所でしょうか。
 人々が日々漠然と感じている不安。そういう曖昧なモノに形を与えたのが「心霊潭」であり「心霊スポット」なのではと思ってしまいます。心の中の「不安」は、「幽霊」として投影され、説明される事により、ある種の安心を手に入れるのかもしれません。
戦争や歴史の転換点などの、世情が不安定な時は現実的な内容の噂が流れ、平和な世の中になる程、非現実的な噂になる傾向があるみたいです。戦時下などと違い、具体的な「恐れ」の対象が無い分、「イメージ」がその代わりとして機能するようです。「イメージ」と言うより「象徴」と言い換えてもいいかもしれません。

 それにしても、噂というのは恐ろしいものです。
最初はありがちな怪談が、時をへるにしたがい尾ひれが付いて、様々な心霊体験が語られています。トラックから消えた女性の話は、何気ない冗談がいつの間にか現実に起きた事にされ、様々なバリエーションが生まれたのだと思います。今でも旧伊勢神隧道では女性の霊の目撃談があります。
しかし、旧隧道はトラックが通れる様な広さはありませんし、そもそもこの話は新隧道の事ではなかったでしょうか? 見た目のイメージだけで、現実的に考えていないのがよくわかります。
 ただし、「過酷な労働により死者がでた」という話には根拠となる事実がありまして、新隧道建設の時、台風の為に12名の工夫が犠牲になりました。その台風というのが、昭和34年に東海地方に甚大なる被害をもたらした伊勢湾台風です。でもこれも戦後の話で、強制連行云々は矛盾してます。この台風では3000人以上の死者が出ているのに、伊勢神だけで化けて出るのは変な話ですね。
 少なくとも新・旧伊勢神隧道で亡くなった女性はいません。

 その昔は飯田街道の難所であり、お伊勢詣りに行けない人達のための伊勢神宮遥拝所がある伊勢神峠。
歴史の道であると同時に、生活の道でもあり、過去から現在に至るまで人々の想いが込められた道です。旧伊勢神隧道も、その難所を解消するために造られたトンネルで、竣工当時は大変賑わったといいます。ここを心霊スポットなどと言うのは、歴史をないがしろにする恥ずかしい行為です。霊に呪われると言うのは、死者を愚ろうする行為です。もしここに本当に霊が居るのなら、彼等に対して敬意をはらって下さい。

 さて、伊勢神隧道の怪談はこの先どうなって行くのか?
心霊スポットとして注目されることになった、元の話や背景などは現在、あまり聞かれないようです。どちらかと言うと個人の体験談として、ネットなどで語られる事の方が多いかもしれません。
「心霊」だけが一人歩きしていて、語られるべき「ストーリー」が欠落している状態。
中心となるストーリーが不在ゆえに、怪談や都市伝説として昇華される事もなく、いたずらに「恐怖」のみが消費されているのが現状です。ただひたすら「消費」と「生産」をくり返すのみです。
 こういうのってテレビの心霊番組の影響なんでしょうか? 以前どこかの番組で、霊能者が旧伊勢神隧道でお祓いをしていました。何か悪い霊が居るとか言ってたようですが、それでもここでは、霊の目撃が後を絶たないでしょう。旧伊勢神隧道自体が心霊現象を再生産するための装置として機能している限りは…
はたして伊勢神隧道怪異潭は、新たな伝説に成り得るのでしょうか。
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