【国道473号線-鉢地坂トンネル】
愛知県の蒲郡市と岡崎市を結ぶ、国道473号線の峠には、昭和8年完成の「鉢地坂トンネル」があります。
かつての難所に掘られたトンネルは、どんな姿なのでしょう?
青字…ラピスのコメント ■黒字…作者のコメント
 

 愛知県にもまだまだ
 魅力的なトンネルがありました。
 滋賀県の隧道と比べても、
 負けないくらい個性的なデザインです。
 「はっちざかトンネル」と読みます。

 鉢地坂の周辺図はこちら→■周辺図■

 蒲郡市側からは、
 細い国道473号線を北上し、
 山の中を連続するカーブで上がって来ると、
 やがて現れる汚れたトンネル。
 昭和8年完成なだけあって、
 汚れ方も半端じゃありません。
 なんだか色が付いてるようにも見える。
 周りの斜面がコンクリで固められてるので、
 よりいっそう目立ちゃってます。

 
 もう少し近付いてみましょう。
 どうです。個性的でしょ?
 アーチの迫石のリズミカルな配置といい、
 その横の三角の模様といい、
 アールデコ様式の影響がうかがえます。
 それだけに、この汚れは残念ですね。

 いや、むしろ長い歴史を感じられて
 いいかも?
 
 中にも入ってみました。
 ここは狭い酷道とはいえ、
 蒲郡市と岡崎市を結ぶ道なので、
 交通量はけっこうあります。
 だからさっと入って、
 さっと撮影して、
 さっさと出ます。
 中は素堀にコンクリ吹き付けです。
 この辺りは固い岩盤なので
 建設当時は岩盤剥き出しだったのかな?
 ちなみにトンネル近くの古い採石場では
 小さなガーネットが採れるそうです。
 

 トンネルの脇の斜面には石碑が立っています。
 「鉢地坂開鑿碑」です。
 下の四角くへこんだ所に
 鉢地坂トンネル建設のいきさつが
 書いてあります。
 蒲郡の尾崎市右衛門って人が
 トンネルの必要性を知事に訴えたそうです。
 でも、この尾崎市右衛門さんは、
 トンネルの完成を見る事無く
 大正9年に亡くなったみたい。
 さぞ無念だったことでしょう。

 
 さて、トンネルを抜けて反対側に出ました。
 こちらの方がさびれた感じ。
 っていうか、わびさび?
 煉瓦隧道とはまた違った風情があります。
 雑草なんかが生えていて、
 より自然な雰囲気です。
 
 扁額にズームイン。
 って、無いよ。
 残念ながら扁額は無くなってます。
 それに表面のコンクリートが
 剥がれちゃってます。
 アーチの上に国道標識が
 ちょこんと掛かってます。
 
 こちら側の中も見てみましょう。
 白く塗られた鉄板で補強されてます。
 向こうの入口があんなに遠いですね。
 いったい全長何メートルあるのだろう?
 ちょっと調べてみましょう。
 全長469.5m、幅4.5m、高さ4.7mだそうです。
 って、あれ?
 上の方の写真には“3.3m”って
 標識が出てたけど…
 ひょとして、この道を1車線として見たら4.7mで
 2車線として見たら3.3mが
 車の通れる限界の高さなのかもしれません。
 
 トンネルを抜けた先は、
 岡崎市の本宿に向けて下って行きます。
 道はやがて国道1号線に合流します。
 江戸時代は東海道が通っていた所なので、
 この鉢地坂は昔から重要な道だったのでしょう。

[2006年8月現在]
 
 こんな古い絵葉書を見付けた。
 「新箱根鉢地坂U形ドライブ道」だって。
 鉢地坂トンネルが開通した当時、
 こんなボンネットバスが走ってたようです。
 愛電自動車という会社が運行していて、
 制服の女子車掌が案内してたっていいます。
 それと峠付近の景色が箱根に似ているので、
 路線の名前は新箱根線と名付けられたそうな。
 あの箱根駅伝でよく見る、あの景色でしょうか?
 現在はとても観光地と言えるような
 風景じゃありませんが…
 ちなみに愛電自動車は、
 現在の名古屋鉄道のことだそうです。

蒲郡には鉢地坂をはじめ、国坂、桑谷坂、坂野坂、星越坂の5つの坂があります。
国坂、坂野坂などは地図上でもその名を見る事が出来ます。
鉢地坂は江戸時代から、東海道に抜ける重要な道にもかかわらず、山が険しく大変な道でした。
明治36年に尾崎市右衛門なる人物が、トンネルを造るため、
知事に対する測量誓願書の提出や促進運動を展開しました。
しかし、人々の理解を得られぬまま、大正6年に市右衛門氏は、病気のためこの世を去りました。
それから16年、市右衛門氏の信念は後継者に受け継がれ、
大正9年4月に県道・切山蒲郡停車場線として認定、昭和8年11月20日に「鉢地坂トンネル」が完成しました。
それ以来この道は「新箱根」と呼ばれ、バスも走り、発展しました。
現在はすぐ東側に、有料道路・音羽蒲郡道路が出来ましたが、
今なお多くの車が、この山あいの国道を利用しています。
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